Get in formation【ソニー再生 変革を成し遂げた「異端のリーダーシップ」】平井 一夫

 



立石泰則著「さよなら! 僕らのソニー」(文春新書)以来、久しぶりにソニーについての本を読見ました。作者の違う二冊ではあるけれど、映画の脚本に例えると、あれから10年が経過して、「さよなら」したことの謎や伏線がこの本によって回収されたような感想を抱きました。

私自身、今使っているPlayStation®4は、ゲーム機が欲しいと言うより「Blu-rayが見られるし、今のテレビのままGoogleTVのような機能が拡張出来て一石二鳥」と思って買ったくらいなので、「これはゲーム機だ。誰がなんと言ってもゲーム機だ」という方向に舵を切った後、プレイステーションが「ゲーム機」として開発されたのだと知り驚きました。

もっとも、それが経営者にとっては本質なのかもしれません。あれもやりたいこれもやりたいと風呂敷を広げるのではなく、目の前にあるありのままに集中して、組織を引っ張っていく。

『ビジョンだけでなく働く人をどう動かすか』を知らしめてくれる一冊だと思いました。


蛇足ですが、平井社長就任時の株主総会には私も参加したのですが、その時に私の隣の席に座っておられたソニーOBらしきご年配の方から「今度の社長は出井よりは良さそうだね」と言って話しかけてこられたことを思い出しました。本著の中にも

・言葉は社員たちに浸透してこそ意味がある。そうでなければ「また新しい社長がなんか言ってるよ」で終わってしまう。

・向かうべき価値をどうやって社員に浸透させればいいか

・製品とサービスを輝かせる。そのためには社員を輝かさなければならない。

という平井社長の経営哲学が書かれていますが、平井さんはそんなふうに社員について考える人だったのだと思います。

私は先に書いたように、久多良木氏が掲げた「プレイステーションという新たなプラットフォームを立ち上げ(中略)新たなエンタテインメントドメインを創り出す」というビジョンの方が共感出来るので足並みを揃えて実現して欲しかったし、LSPXという商品群だってQUALIA の名前を復活させて出して欲しかったと思います。けれど『「何をいうか」ではなく「誰が言うか」』を社員が納得してくれないと、社員は組織を回さなかっただけでなく、退職した後も「今度の社長は前より良い」と言ったりするんだということを教えてくれた、ソニー史上の貴重な一幕でした。